―歴史の中にシャープがある。デザインがある。ミュージアム40周年合同企画「IN HISTORY」―
こんにちは。シャープミュージアムの中谷です。このシリーズでは、ミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでもシャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。
今回語るのは、1938年(昭和13年)「前面開閉式レコードプレーヤー」です。
木製キャビネットのレコードプレーヤー。木製のカバーが優しい表情をしています。
両サイドのやわらかなくぼみに指をあて、手前に引くと、木製カバーが開くのに連動して存在感のあるレコードプレーヤーが表に出てくるというシンプルな仕掛けながら、実際にこの様子をご覧になった人からは 「おお!」と少し驚いた声が聞こえてきます。
その後のCD/DVD/BDプレーヤーのスタンダードになっているフロントローディングスタイルですね。
当時は、ラジオや蓄音機やレコードプレーヤーの多くに木製キャビネットが使用され、調度品として眺めて、聴いて、楽しまれていました。この頃、さらに「ベークライト」と呼ばれる樹脂が使用されるようになり、まるで人の腕のように水平に動いてレコード盤に針を置くアーム部分は、美しい紅色のベークライト製。このレコードプレーヤーのアクセントになっています。
おや、この小さいケースは何でしょう?
ミュージアムに展示されているこの製品のそばには、手のひらサイズくらいのケースも一緒に展示されています。
ケースには「ONCE ONLY」の文字が。
どういう意図かわかりますか?
中に入っているのは、アームの先につける針ですね。この針がレコード盤の溝をなぞることで振動がうまれ、音の再生につながります。
レコード針といえば「ダイヤモンドの針」と思っていましたけれど、この頃(1938年・昭和13年)は鉄の針を使っていたようです。
ダイヤモンドと違って、鉄の針は先が擦れてしまうので、「レコードを聴くたびに針を交換してね」という意味で「ONCE ONLY」と書かれているのでしょう。
そして、レコードプレーヤーの上には、使用前→使用後の鉄針を入れる小さなお皿がついています。
このレコードプレーヤーが発売された後、世界大戦の混乱を経てしばらくの間は物資不足の時代が続き、ダイヤモンドはおろか鉄も入手しがたくなりました。それでも当時の人々は、竹を削って針を作りレコードを聴いたそうです。
2020年シャープミュージアムでは、OBの皆さんに協力いただき、「蓄音機とラヂオ企画展」を行いました。
参加者の皆様に持ち寄っていただいたレコードと、その思い出話をご披露いただきながら、会場の皆様と一緒に、何ともノスタルジックで表現力豊かな音楽にうっとり聴き入る・・というぜいたくなひとときでした。
このレコードプレーヤーが発売されたのは昭和13年。戦時体制に突入した頃の日本人の暮らしはどんな空気感だったのか。モノクロの写真を眺めて想像するしかありません。けれどもテレビの無かったこの時代、ラジオやレコードの音に耳を傾けるというのは、人々の心豊かになれるひとときだったのではないでしょうか。
レコード盤の溝にプレーヤーの針をそっと置く瞬間の、ちょっとした緊張感に思いを馳せてみると・・・当時の人々の幸せな気持ちが少しだけ伝わってきたような気がしました。
今回はここまで!次回は「フォノラジオ」についてご紹介する予定です。
【シャープミュージアムは2021年11月で設立40周年を迎えました】
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このシリーズでは、シャープミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでも、シャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。