Design Column

デザインコラム

1915(大正4年) 早川式繰出鉛筆

―歴史の中にシャープがある。デザインがある。ミュージアム40周年合同企画「IN HISTORY」―

こんにちは。シャープミュージアムの藤原です。この度、ミュージアム説明員の藤原と中谷がシャープの製品や歴史について自由に語る、シリーズ企画を始めました。ほんの少しでも、シャープの歴史に興味を持っていただけましたら幸いです!

今回語るのは「1915(大正4年) 早川式繰出鉛筆」です。

「もっといいもん作って来い」

シャープ創業者の早川徳次は、21歳の時に金属を加工した繰出鉛筆の仕組みを考案し、いつも先が尖っている鉛筆ということから「EVER READY SHARP PENCIL」と名付けました。

しかし、ようやく鉛筆の生産が本格化したこの頃の日本では、まだまだ和服を着ている人も多く、「こんなものは和服に合わない」、「金属なんて冷たくて使えない」と言われて問屋さんでなかなか仕入れてもらえませんでした。

あるとき「もっといいもん作って来い」と突き返された言葉が、“大正のクリエーター”早川さんのやる気を奮い立たせます。

幼いころから住み込みの見習いで身につけた金属加工の技に自信のあった早川さんは、金、銀、赤銅、ニッケルを自在に加工して、和服にも合うよう、短いもの、細いもの、リングをつけて、鎖を通して持ち運びに便利な形状にしたり、美しい刻み柄の装飾や文字それから・・よーく見ると、中にはクリップの部分に紳士の表情を彫刻した斬新なデザインも!

こうして毎月毎月6通りの創意工夫を続け、6か月後にはとうとう36種類のシャープペンシルができました。

早川自慢の堅牢で美しいかたち

そうそうこれです。紳士の「顔」のあるデザイン!歴史館にはペンシルたちがずらっと並んでいますが、思わず息を飲み、じっと見つめてしまいます。他にも、アルファベットが刻まれた外国風のペンシルなどもあります。当時はまだ洋装は珍しく背広なんて上流階級のエリート服の時代ですが・・富裕層向けの品物なんでしょうか。

早川式繰出鉛筆は日本よりも先に海外で流行したので、海外向けとして作られた背景が関係しているかもしれません。シャープペンシルの中には、“体温計収納型のシャープペンシル”や、アウトドアで活躍しそうな“ハサミ付き”、GPSならぬ“方位磁石付き”、細かい数字が刻まれたリングをまわす“万年カレンダー付き”など、付加価値としての創意工夫の足跡も詰まっています。

100年前の鉛筆と今のスマートフォン

私が面白いなーと思うのは、早川さんの時代を超越した先見性です。
早川式繰出鉛筆の頃から100年余りたった今、文房具はほぼスマートフォンで解決できるようになりました。

早川さんがシャープペンシルに付加された機能・・ハサミはペーパーレス化で出番が少なくなりましたけれど、
・カレンダーは、カレンダーアプリに。
・方位磁石は、GPSナビに。
・体温計は、ヘルスケアアプリに。
今では、それらは全部スマートフォンの中にありますよね。

現代モバイル端末で持ち歩くニーズのある機能を、早川さんは100年余り前にシャープペンシルと共に持ち歩くことをイメージしていたことが興味深いですね。

大正デモクラシーの時代、自由な気風と新しい文化が芽生え始めたとは言え、一体どんな発想で作ったんでしょうね。

シャープペンシルのロマン話

ちなみにデザインも、「愛嬌」というか「庶民的」な印象とはまたちがう「気品」めいた雰囲気を放ってます。
当時の人々はまだ和装で「ポケット」が無かったため、初期のシャープペンシルにはクリップが付いておらず、代わりに先頭に直径5ミリほどのリング(輪)がついていて、そこに紐を通し、ペンダントトップのように首からぶら下げて持ち歩けるようにしたそうです。ちょっと小さめで小指くらいのサイズ。当時はハイカラな印象だったのかもしれません。

そう言えば、以前、「大人の文房具」という雑誌で作家の使用していた文房具が掲載されていて、鉛筆を使う作家が多い中、一人だけ「シャープペンシル」を使用していた作家として「宮沢賢治」が紹介されていたそうです。年代から推測してそれは早川式繰出鉛筆ではないかということで、わざわざ確認のために来てくださった宮沢賢治を研究されているという方をご案内したことがあります。

宮沢賢治は、紐のついたシャープペンシルと手帳を首から吊るして歩きまわっていたそうですよ。決定的な証拠がないので早川式繰出鉛筆だったかどうかは断定できなかったようですが、来られた方は「サイズ感とか似てるな・・」とコメントされていました。

ロマンを感じますねぇ。

 

最後に、当時のことを後述した早川さんの言葉をご紹介します。
“精巧で、実用的で、日常必需品として必ず売れるという自信を持っていたのに、文具店をまわったが色々と難をつけられた。難をつけられるのはどこか悪いからであり、私は次の週には非難された箇所を忠実に改めて持って行った。私は決してサジを投げなかった。
6か月後、大手文具店の主人が、私の商品に対する自信と熱心な説明に感激されて、全36種類にわたり各1グロスずつの注文をくれた。以来ずっと、この文具店から大量の注文が続いた。また国内外方々からの注文に品不足で制作に追われる毎日が続いた。
この時の体験から私は、まことの心を持って、くじけず仕事をしていれば、いつか必ず勝利者になれる日が来ると固く信じている”。

早川徳次著「私の考え方」浪速社発行 より一部抜粋

 

今回はここまで!
次回は「洗濯機」についてご紹介する予定です。

 

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このシリーズでは、シャープミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでも、シャープの歴史に興味を持っていただけましたら幸いです。