Design Stories

IN HISTORY

歴史の中にシャープがある。デザインがある。

1979年(昭和54年)ラテカピュータ

―歴史の中にシャープがある。デザインがある。ミュージアム40周年合同企画「IN HISTORY」―

こんにちは。シャープミュージアムの藤原です。このシリーズでは、ミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでもシャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。

今回語るのは、1979年(昭和54年) ラテカピュータ「PC-2000」です。

ここシャープミュージアムで所蔵・展示、ご紹介しているシャープ製品は、近代化産業遺産、重要科学技術史資料(未来技術遺産)、情報処理技術遺産、IEEEマイルストーンに認められた製品史料をはじめ、驚きをもって世の中に迎えられ、やがて時代の本流となっていったものや、ユニークな製品に先人たちが試行錯誤、挑戦してきた足跡です。

今回ご紹介するラテカピュータにもそのドラマがあります。

社員でさえ知らなかった⁉幻の逸品

1979年(昭和54年)に、わずか200台だけ生産されたという「ラテカピュータ」。その存在を知る人は少なく、現存する台数も少ないまさに知る人ぞ知る“幻の製品”です。

このミュージアムに展示してから年間数人の方は、「おおおーーーここにあったのか!」と、まるでレアな化石を掘り起こしたかのような感嘆の表情で立ち止まり、じっくりと時間をかけて観察したり、撮影をされたりしています。

この外観と名称から、その正体を想像していただけるでしょうか。
ラテカピュータの

「ラ」はラジオの「ラ」

「テ」は「テレビ」

「カ」は「カセット」

「ピュータ」は・・・?
手前にある部分を引き出すと・・・ほら、キーボードが隠れていました。

そう、これは「コンピュータを内蔵したテレビラジカセ」なのです。持ち運びしやすいように、キーボードを収納式にしたのでしょう。

なぜこの組み合わせなのかもっと知りたくて、昔の製品カタログを探してみました。

足し算から生まれた変わり種

保管されたカタログアーカイブで、発売年×カテゴリーの条件で探すのですが、テレビや音響の類には見当たりません。空調・キッチン・住宅設備ではないので飛ばして・・・見つけました!なんと電卓と並んで事務機のカテゴリーに?

というのも、ラテカピュータの誕生ストーリーはかなり変わっていて、当時初号機を開発したのは電子式計算機の専門家チームだったというのです。

そもそも電卓は、1960年代前半、世の中が大型コンピュータの研究にしのぎを削っていた頃、手軽に持ち運べるコンピュータを作ろうと試行錯誤してシャープが完成させた「卓上における電子式計算機(コンピュータ)」でした。これが後に「電卓」と呼ばれるようになります。

ラテカピュータが登場した1979年(昭和54年)頃には電卓の技術の進化も飽和し、デザインの多様化や機能の複合化へと派生し始めていました。

機能の複合化といえば、電卓とそろばんを一体化した「ソロカル(1978年)」や冷蔵庫に電子レンジを組み込んだ「クッキング冷蔵庫(1986年)」を思い出される方もおられるのではないでしょうか。

当時の開発者たちの、まるで少年のような自由な思いは、とうとう「ラテカセ(ラジオ+テレビ+カセットテープレコーダ)」に「コンピュータ」を足し算したのです。

今に伝わる開発熱とDNA

“幻の“とまで言われるラテカピュータ。当時の開発者にその秘話を聞かせてもらいましたので、少しだけご紹介しますね。

「ラテカピュータ」、どこか冗談のようなネーミングですが、開発は大真面目。当時、電卓専門メンバー4人で開発をスタートしたそうです。

テレビ回路の勉強のために、テレビの技術からラテカセの回路図やプリント基板の部品配置図を取り寄せ、1ヶ月ほど試行錯誤と静電気テストの日々を送ります。

回路の他にも複雑に組み合わせた機構部をコンパクトなボディに収めきるという、当時の技術では超難易度の高い設計や、一から手がける複雑なソフト開発などを、たった4人でこなす、なかなか無茶な挑戦でした。

あらゆる困難を極める中でしたが、コツコツと開発を進めるうちメンバーのひとりが天才的な発想でソフト開発を一気に進めたり、たまたま席が隣合わせていた同僚がラテカピュータに興味を持ち全力で力を貸してくれたりと着実に問題を解決しながら製品化に漕ぎ着けることができました。

思い返すと、このような自由な行動が許される環境で働けたことや、こんな無謀なことにも挑戦をさせてもらえた社風は、技術者として最高の喜びであり、製品化できたことは今でも誇りに思うそうです。

当時の開発者に教えてもらったお話、なんとなく勇気が湧くいいお話でしたね。

現在でも社内では、同じ思いの人たちが部門の垣根を超えて同好会みたいに集まっては議論したり、あれこれ試してみたりという姿を見ることがよくあります。ラテカピュータ誕生秘話は40年以上も前の物語ですが、ラテカピュータというちょっと変わった製品を通して、今も受け継がれるシャープのDNAを感じました。

 

今回はここまで!次回は「電卓SPARKY」についてご紹介する予定です。

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このシリーズでは、シャープミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでも、シャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。