Design Stories

IN HISTORY

歴史の中にシャープがある。デザインがある。

1948年(昭和23年) 漆絵ラジオ

―歴史の中にシャープがある。デザインがある。ミュージアム40周年合同企画「IN HISTORY」―

こんにちは。シャープミュージアムの藤原です。このシリーズでは、ミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでもシャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。

 

今回語るのは「1948年(昭和23年)  漆絵ラジオ」です。

漆芸家とつくった贈答用ラジオ

「東京ブギウギ リズムウキウキ 心ズキズキ ワクワク」~♪
(歌:笠置シヅ子 作詞:鈴木勝 作曲:服部良一  「東京ブギウギ」からの引用)

戦後1948年の流行歌のひとつに、歌手の笠置シヅ子さんの「東京ブギウギ」を見つけました。
きっと、この見事な漆絵が描かれたラジオからも、人をウキウキさせる歌が流れていたかもしれません。

戦前、シャープ創業者の早川徳次は製品の組み立て方に「間歇式ベルトコンベヤ方式」を考案し数々の特許を取得。56秒に一台(!)の大量生産を実現することで、価格も安価に、広くラジオの普及に貢献しました。

しかしその一方でこの贈答用ラジオは、漆芸家の川端近左師によって一点一点、丹念に手描きされたもので、大量生産とは一線を画し、希少性と個性を重んじたラジオです。

戦後人々の生活が徐々に元に戻りつつある中で、昭和23年ごろから東京や大阪などの大都市では急速に復興が進んだようです。観光が目的の訪日外国人も徐々に増加。戦時中は楽しむことが許されなかったファッションにおいても戦後は解放され、時代は女性らしさを強調するスタイルを求め装うことの自由と喜びを得ました。

当時、フランスのクリスチャンディオールの発表した「ニュールック」と呼ばれるロングスカートが、アメリカを経由して日本でも大流行したことなどから、復興とともに、それまでになかった華やかさを人々が楽しむ姿が想像できます。

そのような時代に見た目にも華やかで、その場の空気をパッと明るくしてくれるこのラジオは、人々の気持ちも明るくしたのでしょう。まさしく「飾る」「愛でる」調度品ですね。

希少性にこだわったデザイン

できるだけ凹凸の無いかたちに納めるため、例えばチューニングや音量調整のダイヤルは飛び出さないよう、その周囲をくりぬいた形にするという丁寧なつくりになっています。

また、配色は落ち着いた赤系。(当時はもっと鮮やかな色合いだったかも)赤は昔からおめでたい意味があり、命や誕生を意味するのだそうです。人目も惹き、感情の高ぶりをもたらすという話も。まだ染料や顔料が手に入りにくく貴重だった時代、鮮やかな赤は憧れの色であり、特別な色だったとのこと。
ここぞという場面、人を喜ばせたい、特別感を表すためのとっておきの色だったと思われます。

 

さて、一般的なラジオは選局するためにダイヤルを回すと目盛上を針が動くのですが、このラジオには針の形跡がありません。
どうやって選局していたのでしょうか?実はこの針がないデザインにも素敵な秘密がありました。

やわらかな明かりに思いを馳せる

ミュージアムに所蔵のこのラジオはもはや動かないので、自分の目で確かめることは叶わず、説明書などのエビデンスもないので、社員から脈々と受け継がれてきた話になりますが・・・電源OFFの時は針は見えておらず電源をONにすると、中央の目盛板に”ぽっ”と明かりが灯り、そこに針の影が動くという幻想的なつくりになっていたのだそうです。
残念ながら、今その魅力的な姿を見ることはできません。けれども、やわらかな明かりの中に一筋の影がゆっくりと動く様子を思い描くたびに、私は何とも心穏やかな心地になります…。

 

今回はここまで!次回は人類初の月面着陸に沸いたあの時代に発売した「トランジスタラジオ」についてご紹介する予定です。

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このシリーズでは、シャープミュージアム説明員の藤原と中谷が、シャープの製品や歴史について自由に語ります。ほんの少しでもシャープの歴史にご興味を持っていただけましたら幸いです。